赤い蝋燭と人魚 1/2

日本のアンデルセンとの異名を持つ、小川未明の童話集に収録されている作品であり、彼の代表作とも言える物語です。独特の切なさを帯びた大好きなこの作品について紹介します。

 

舞台は寒い北の海です。そこに住むひとりの人魚がこれから生まれてくる我が子を、自分たちの住む海ではなく人間界へ産み落とすことにします。冷たい海の底でさびしい暮らしをしてきた彼女が、せめてこの子だけでも温かな人々のもとで暮らしてほしいと願ってのことでした。

この人魚は人間のことを直接は知らないようです。『~と聞いている。』『~だろうと思った。』と、噂や憶測で人間界の知識を得ている描写があります。彼女にとっての“人間界”とは、“とても温かく優しく心地よい場所”のように描かれており、いわば“幸せに満ち溢れた楽園”のような印象を受けます。自分の身に授かった大切な我が子ですから、どうか幸せになってほしいという強い思いが彼女をそういった思考にさせたのでしょう。そんな身勝手ともとれる母親人魚の願いと共に、人魚の赤子は陸へ産み落とされ、幸いなことに優しい老夫婦に拾われました。

 

この舞台の海は、小川未明の故郷・新潟の海も少なからずモデルになっているでしょう。人魚の母親はこの海を、とても冷たく、暗く、広大でさびしい場所だと思っているようで、読者にもそれを強く訴えかけてきます。そうしてそこで、「人間界はとても良い場所で、子どももきっと幸せになるのだ」というイメージを与えられます。

こうして書いてみると、人間などそんな神聖なものではないと私は思うのですが、ここでぐっと人魚の母親に共感させられてしまいます。私もこの段階ではその後の明るい未来を頭に描きました。

 

陸に産み落とされ、老夫婦に育てられた人魚は美しい女性に成長し、母親の願望通りに幸せの一途を辿ります。老夫婦は、彼女が人間でなくても、「神様からの授かりもの」と大事に育ててくれます。この二人はとても優しい人格者だと、印象付けられる台詞がつらつらと並んでいます。

ろうそくを売っていた二人の手伝いとして、人魚の子はろうそくに絵を描き始めます。それは美しく不思議な魅力を持ち、町の人々に飛ぶように売れました。さらに船が転覆しないというジンクスもついて、いわば『竹取物語』の翁と媼のごとく、老夫婦は裕福になってゆきます。人魚の子も育ての親に恩を返そうと、一生懸命働きます。ここまではみんな、夫婦も、人魚の子も、町の人々も幸せです。私もきっと幸せに終わるのだろうと思っていました。

 

2/2へ続きます。