山椒魚 1/2

 今回は私の好きな文豪の一人、井伏鱒二の紹介です。代表作『山椒魚』を取り上げていきましょう。

 

 もともと手に取ったきっかけは、ゲームキャラクターとして井伏先生が実装され、知らない作家さんだけど読んでみようと購入したのでした。

小さい頃からの本好きなので、前回の島崎藤村の著作もそうですが、読みたいと思ったらすぐ書店に行ってしまうのは私の癖ですね。作品の前情報も何も調べずに購入してしまいます。今回は代表作が『山椒魚』というタイトルであることしか知らず、物語も一文字たりとも知りませんでした。

 

結論から言うと、私はこれを読んで井伏先生の大ファンになりました。

まず魅力的だったポイントとしては、文章がコミカルで面白い。現代に近い文章で書かれているため、するっと頭に入ってくる描写が多いです。表題にもなっている『山椒魚』は、冒頭からグッと心を惹かれました。『山椒魚は悲しんだ。』から始まる一連の文、たったひとことの台詞『「何たる失策であることか!」』。こんな短い文章だけで山椒魚の狼狽を描き切ってしまわれているのです。一気に私は読者から山椒魚本人へと変わりました。ずっと住処のあなぐらでのんびりしていたがために、自分の体が大きく大きく成長してしまい、小さな出入口の穴から出られなくなってしまった山椒魚。水底の暗く狭い穴の中で、これから一生を過ごさねばならなくなったと理解した時の絶望感、悲哀がおかしくも切に伝わってきます。

こう引き合いに出すのは良い事か悪いことかわかりませんが、私の好きな現代作家である森身登美彦先生の文章と似ているな、と感じたことも記しておきます。多少回りくどく適度に堅苦しく、それでいてユーモアがある語り口や動物の擬人化という点で、おそらく私の頭の中で結びついたのでしょう。なるほどこれは好きだな、と更に納得しました。

 

山椒魚は何度も小さな出入口に大きな頭を突っ込み、そのたびにコロップ(コルク)の栓のように挟まっては後退し、暴れたおかげで砂まみれになり、それを小エビに失笑されると散々です。『「ああ寒いほど独りぼっちだ!」』悲痛な独り言とすすり泣く声が響きます。

どれもこれも全て挙げたいくらいに、井伏先生の紡ぐ台詞が絶妙な感情を表されていたり滑稽であったり、とても胸に響くのでここも魅力のひとつですね。山椒魚のあなぐらに蛙が迷い込み、その蛙を山椒魚は閉じ込めてしまいます。お前もこの穴に閉じ込めてやると、仲間を作ったわけです。最初こそ言い争っていた二匹は一年の時を過ごし、最後に交わす会話は切なく終わっています。

続きます。