赤い蝋燭と人魚 2/2

続きになります。

 

 人魚が絵付けをしたろうそくは大盛況で、幸せになった彼らですが、ここから物語は下り坂を転がり落ちてゆきます。

夫婦はある時香具師に、「その人魚を売ってくれ」と申し出られるのです。推測ですが、文脈からし見世物小屋でしょう。それはいくら温厚な夫婦ですら怒りますよね。最初は何度も追い返します。

 

しかしなんと、その後夫婦は娘をその香具師に売ってしまうのです。読んでいた私は思わずええっと声を上げました。あんなに大事に可愛がっていたのに…?何年も一緒に暮らしたのに…?仰天でした。

そこで“人間の闇”がくろぐろと書き連ねられるわけですが、「人魚は不吉な生き物だ」という吹聴を信じたのはまだしも、大金に目がくらんで娘を引き渡すという老夫婦の非道さが恐ろしいです。なかなかに精神的な攻撃力が高かったです。

娘は抵抗もできず香具師とその街を出ていきました。ここで冒頭の、人魚の母親のことが思われます。やさしい人間を信じて愛する我が子を託したのに…。

そこから先は、ろうそくが船のお守りの逆効果になり、転覆事故が多発するなど、不幸が重なります。そして、かつてそんな町があったんだよ、という終わり方をしています。この部分が、祖母から聞いた不思議な伝承のような余韻を含んでいて好きな部分ですね。

 

 ここまで割と粗探しするように書いていますが、冒頭でも言ったように私はこの作品が好きです。まず冷たい海に面した町、これはこの物語の全体の雰囲気を具現化したものだと解釈しています。南方で育った身ですが、冬の海の過酷さは知っています。確実にこの舞台はそれ以上の冷たさでしょう。温かな家庭に見えても、金に目がくらめば一転、極寒の海のような冷たさを人間は発揮できるということではないでしょうか。とても秀逸で、しかし想像しやすく、他にはない表現方法だなと思います。

 また、エゴイズムも作品中要所に見られます。最初の人魚の母親は、自分が考えうる幸せの形を自らの子に無理やり押し付けたとも取れます。赤子を拾った夫婦も、「かわいそうだから」「人間ではないから」という同情で人魚の娘を育てていただけ、という可能性もありますね。それなら香具師に売り渡したのも納得です。

 香具師に売られた人魚の娘は冬の荒波に翻弄される船のようです。その後、何か奇跡でも起こって本当の幸せをつかんでくれることを祈るばかりです。これも私から出たエゴになってしまうので、人間の性というものですね。

 

 終始一貫して、広大な冷たい海を彷徨うような文が織りなす物語です。

 王道ではなく、切ない、さびしい物語ですが、小さい頃に読んでもきっと好きになっていただろうなと思う作品です。

 ご拝読ありがとうございました。これを機に小川未明作品に興味を持っていただけたら嬉しいです。