牧水の恋 1/2

 牧水は宮崎を代表する詩人・若山牧水です。自然と酒を愛しそれにちなんだ短歌を数多く残しています。そんな彼の人生を作り上げたともいえる、情熱的な恋にフォーカスして、牧水の意志を継ぐ現代の歌人俵万智さんが本書を書き上げられました。

 

 牧水を調べると、出身地宮崎県が展開している若山牧水の紹介ページがヒットします。

 私自身、彼の出身地の真横の村で生まれ育ったため、小学校から慣れ親しんだ文豪でした。しかしそれは“文豪”としての若山先生の姿でしかなく、上記の紹介ページの情報しか知りません。

 そこへ、『牧水の恋』が俵先生著で発売されました。少なからず地元の有名人ということで尊敬していた若山先生のことを、俵先生というビッグネームが研究して評伝として出版された。すぐに書店へ行って購入しました。

 

 若山先生が大学在学中、恋をつづった短歌をいくつも詠まれました。それを取り上げるところから本編は始まります。

 内容は前後しますが、印象深い歌をいくつか引用します。

 

くちづけは長かりしかなあめつちにかへり来てまた黒髪を見る

松透きて海見ゆる窓のまひる日にやすらに睡る人の髪吸ふ

白粉と髪のにほひをききわけむ静かなる夜の黄なるともしび

 

 以上三句からもわかるかと思いますが、若山先生は黒髪を非常に愛していた様子です。今で言うフェティシズムに近いものですね。かなり多く黒髪に関する歌を詠まれたそうです。こうして黒髪を愛でているものが大多数ですが、恋がうまくいかなかったり、恋人につかれた嘘が判明したりした時に「その髪を燃やして目を潰して謝罪しろ!」というような過激な歌もあり、なかなか執念深い部分も見えます。

 

 本書での逸話は、小枝子という女性との恋愛が主としてつづられています。小枝子は誰が見ても美しいと評判の器量のよい人物だったそうです。若山先生とは互いに惹かれあっていたようですが、若山先生は恥ずかしがってか否か、周りには「そんなに美人じゃない」と触れ回っていたというエピソードもほほえましかったですね。

 二人でスケッチに出た時のお話もありました。若山先生はここでも小枝子の絵を「へたくそだよ」と、友人宛の手紙につづっていて、なかなかにかわいらしいです。

 

 国木田独歩の『武蔵野』を愛読し、武蔵野にもデートによく訪れたとか。小枝子とまだ正式なお付き合いも始まっていないのに、熟年夫婦らしい雰囲気を出しているところがなんだかもどかしい情景です。

 忘れていましたが、実は小枝子は若山先生と出会った時には既婚で、子どもまでいます。実家広島に家族を置いて、東京で若山先生といわば不倫の一歩手前(?)だったのですが、小枝子はそれを若山先生に伝えることなく仲を深めていきます。

続きます。